2010年4月11日日曜日

転校生 第4回

 「ごはんだよ!」と下のチビが布団をかぶり寝たふりをしてる私を覗きこむように起こしにきます。此の娘は何かと人のことをかまいにきて、夕方、土間のタタキに据え付けられた薪風呂に入っていても、「ぬるくない?」などと、風呂の中を覗きこむのです。 
 姉二人は母親の家事の手伝いに追われ、興味深く目線で私をおいかけますが、口を聞くような機会を避けているように振舞ってくれていました。会話はこちらから何かを頼む時、バスの時間を調べて貰う時、そんなこと以外はこちらの顔を見て、二人して笑いながら逃げてしまいます。
 末娘がわたしの挙動を何かと報告をし、三人姉妹で何が嬉しいのか、首を寄せ合い、笑いが絶えませんでしたね。
       
 今日は私の初めての登校日です。味噌汁が何時もと違い、ケンチン汁でした。鉄鍋が居間の囲炉裏にぶら下げてあり薪の燠火が赤く白い灰からのぞいています。おかずは、お新香さえあればもう十分。お茶碗が大きいのでそれだけでもう食べられません。
 家のおやじさんはもう朝飯を食べ終え、登校の支度も終えて、私を待っているみたいです。一応ランドセルに筆記用具、ノートをぶら下げ、革靴を履いて行こうとしていたら、教頭のおやじさんから、声がとびます。
「運動靴で行きなさい。」続いて手拭を姉さんかぶりにしたおかみさんから声がとびます。「はい、これ、お弁当!」家族に見送られ土間のタタキに揃えてくれた、運動靴を履いて並んで門か出発です。

 南正面に屋根の付いた門があります。家が少し高台にありますので、入口に立つと、柚木村の半分が見渡せます。バス通りにつながる農道が、車一台通れる位の幅で、桑畑の真ん中を通っています。桑畑が何坪か知りませんが、駐在所の二階屋があります。お巡りさんの姿を、見たことが有りません。でも、朝の通学に行くようになると、OL風衣装の娘さんとバス停で一緒になるのです。

 まだ半月、知らない土地で、なんとなく挨拶出来る人、釣り具やのおじさん、家の三人娘の末っ子。駐在のこの姉さん。柚木村にも小学校は在る筈なのに、幸いなことか姿を見た事事がありません。

つづく              

2010年4月2日金曜日

紅い帽子 Forget-me-not

紅の 帽子被りし あの頃 忘れな草     ノブ