私も教室を抜け出してきたのか、追い出されてきたのか、分からない気分です。
運動場に出ました。北野小学校は全校生の数も少くなく、生徒に貸し出せるスポ-ツ用具は殆どありません。野球をする生徒もいません。ミットも、グローブもないのですから。ドッチボールで遊ぶボールがありません。兵隊ごっこするにも、鍔のある制帽がない。靴を履くどころか、草履、わらじ、亦は裸足です。
女子が四、五人で遊ぶのはお手玉位。おはじき、ビー玉はあったかな。何しろ、地域の周りには文具店、昔懐かしい駄菓子屋見たいな店一つないところですから。
運動場の中央では、六年男子が固まって、白墨で地面に大きな輪を書いて集まっています。私は隅に並んでる鉄棒に手を伸ばし、蹴上がりをしようと思いましたが、ぶらさがる高さの鉄棒がありません。それで、逆上がりから、前方回転、後方回転と色々小技を使い遊び半分に汗をかき始めると、いつの間にか周りに女生徒が私を囲むように、集まっているのです。私は東京の学校では鉄棒は選手でした。
得意になったわけではないけど、ここで派手な技を見せなければ、と私の肩に届く一番高い鉄棒の前に立ち、「富士下がり」をして見せ、最後に大きく前後に体を振り前方に鉄棒から足をはずして、飛び降りるのです。見た目は派手ですが以外に簡単な技です。でも歓声をあげてくれましたね。
そんな事を同級生の窓際の仲間が見てたのでしょう。私のところに呼び出しの誘いがきましたね。十人位が二手に分かれ陣取をしてるみたいです。この遊びに入れと云うことなんですが・・・
陣取りは二手に分かれ、それぞれの隊長を決め、その陣地の隊長を白墨で大きく書いた輪から押しだした方が勝ち。陣地の間には小さい円形が五、六個書かれそれぞれの兵隊が陣地を守り、敵を食い止めるのです。輪から出たら戦死です。そして、最後に敵地に入り込んだ隊長同士の戦いをするわけ、。
ゲームとしては輪の中から押し出せば終わりですが、それではお互い意味がありませんね。問題はゲームの勝負ではないからです。どちらかがお前にはかなわないと、おもわせなければ、仲間への面子が立たないと云うわけ。番長との対決です。
私は喧嘩をしたり、人を怒鳴りつけることはしたことがありません。今でも、人生を振り返り、勿論、私から手をだしたことはありませんね。相手に怪我をさせずに、うまく凹ますことが出来るかです。秘策があるのです。
相手は陣地で動かず、私の方から、小さな輪を飛び進みこんでくるのを待っています。私は小柄ですが、敏捷で、腰は三枚腰と云われた程、物事の瀬戸際の勝負に強いのです。相手は私が小さい輪から陣地に飛び移る瞬間を、突き出しに来る筈。でも、それでゲームの勝負はついても私をいためつけることにはなりませんね。私もそこでゲームを終わらせたくはありません。
先ず、うまく中に飛び込むことにしました。陣地の周りには、小さい歩兵陣がいくつも書かれています。其の中の三か所を踏み台に加速を付け、陣地に近いところから飛び込むとみせて、離れた場所から、飛び込もう。後は入った時に、蹴飛ばされないように、素早く相手の懐に飛び込むこと。
状況は上手く思ったとおり相手と組み合うことができました。ここから、私のとっておきの秘技を出すのです。柔道で言う、寄り戻しに似ているけど、一寸違います。自分では「風車」とも名づけようとも、三船十段の「空気なげ」に憧れていた頃です。どれも相手の力を利用した変則技です。いままで三回ほど使いましたよ。幾分、合気道に似ています。門外不出の技と言われていましたね。私は自分で遊び心で考えた遊び技ですが、言葉で説明は難しいですね。
相手と組んだら、右に投げると見せかけ左に寄り戻しをかけながら、相手の腰を前に引き落とし気味に相手の身体を浮かせるのです。右へ回りこみ一瞬腰が浮いた瞬間を狙い、風車のようにぐるぐる回すのです。相手の足が宙に浮きながら、風車のようにまわすことができるのです。相手の体を浮かせるように、自分の身体を後ろに後退させながら、右へ右へと、自分も回り込むのです。遠心力で相手の足が地面から離れ、もう身体が水平にに宙に浮き、なすすべもなくなり、そっと、降ろしてやっても暫くは立ちあがれませんよ。立ちあがっつた時は、戦意喪失で、すごすごと引き下がるだけです。
これで、私は相手を傷つけず、クラス組での力関係のトップに立ったことになります。よく父親が子供を抱き上げて、そら、タカイ高い!と、遊んでる光景は良くみますね。あれは、体力差が違いすぎるから出来るので、私は相手がアスリート系の人は別として、普通の人となら遊びとしては、ひけを取ることはありませんでした。
長い間こんな詰まらないお話はここで終わらせていただきます。
2010年6月10日木曜日
転校生 第8回
教室での喧騒は相変わらず、窓際の男子生徒です。
先生が入ってきて、授業が始まり、先生が黒板に向かい、チョークで何か書き始めると、もう勝手なふざけ合い、物を投げる、椅子をガタつかせる、隣の女生徒をからかい始める、女生徒の甲高い笑い声。そろそろ先生の忍耐が切れるころですね。
先生が教壇の端に立ち、怒鳴ります。
「おい、お前達、そんなにふざけたいなら、教室を出て行きなさい。」
一瞬彼らも静まりますが、それこそ、待ってましたとばかりゾロゾロ出て行きます。外は初夏の明るい空。女生徒も何となくついでに出て行くと、反対側の生徒も二人、三人と続きます。
そして、残るのは級長、女子副級長それに私。
先生も、何時ものことで驚きもしません。
「お前達も、この時間、外で遊んで来い。」
もうすぐ夏休みがやってきます。東京に帰れる。うれしい!でも、この頃、私は土曜日の午後は家へ帰ることにしていました。映画を見に行くんだ。デパートのお子様ランチ。母親と一緒に街を歩く楽しみ。
そして、日曜日の夕方、新宿から八王寺まで中央線に乗るのですが、電車が街の中を走っているところからだんだん何もない夕焼け空を眺めてぽつんと窓の外以外は見回すこの出来ない淋しさ、唯、情けないおもいでしたよ。
そんな時に、何処で読んだ一茶の言葉か、今でも呟くことが有りますが、こんな言葉です。
「唯 嘆け、汝が 性の拙さを」
こんな言葉を理解してた自分が居た不思議をおまじないみたいに大事にしています。
八王子から柚木村行きの最終便がでます。それに乗る時間待ちを街の古本屋で何時も時間を調整します。当時私は時計など持たされていなかった筈、でもバスの時刻どおり動くことはできていましたね。
本屋で買うのは、江戸川乱歩の小説、それから捕り物帳などです。もうその時間は街も薄暗くバス停の車庫の周りだけ明るい電光に照らされている時間です。乗車する人も少なく、お互い見知らぬ人達。多分終点迄乗っているのは私だけ。時間は四、五十分位掛かる筈。多分一人だけで降りて帰る筈。桑畑の中を突き抜ければ
早いのですが、夜はそんなまねができませんよね。農道を大きくりながら少し坂の小道を一目散に家にとびこむのです。
こんな話は閑話休題です。空になった教室の続きを今度書きます。
つづく
先生が入ってきて、授業が始まり、先生が黒板に向かい、チョークで何か書き始めると、もう勝手なふざけ合い、物を投げる、椅子をガタつかせる、隣の女生徒をからかい始める、女生徒の甲高い笑い声。そろそろ先生の忍耐が切れるころですね。
先生が教壇の端に立ち、怒鳴ります。
「おい、お前達、そんなにふざけたいなら、教室を出て行きなさい。」
一瞬彼らも静まりますが、それこそ、待ってましたとばかりゾロゾロ出て行きます。外は初夏の明るい空。女生徒も何となくついでに出て行くと、反対側の生徒も二人、三人と続きます。
そして、残るのは級長、女子副級長それに私。
先生も、何時ものことで驚きもしません。
「お前達も、この時間、外で遊んで来い。」
もうすぐ夏休みがやってきます。東京に帰れる。うれしい!でも、この頃、私は土曜日の午後は家へ帰ることにしていました。映画を見に行くんだ。デパートのお子様ランチ。母親と一緒に街を歩く楽しみ。
そして、日曜日の夕方、新宿から八王寺まで中央線に乗るのですが、電車が街の中を走っているところからだんだん何もない夕焼け空を眺めてぽつんと窓の外以外は見回すこの出来ない淋しさ、唯、情けないおもいでしたよ。
そんな時に、何処で読んだ一茶の言葉か、今でも呟くことが有りますが、こんな言葉です。
「唯 嘆け、汝が 性の拙さを」
こんな言葉を理解してた自分が居た不思議をおまじないみたいに大事にしています。
八王子から柚木村行きの最終便がでます。それに乗る時間待ちを街の古本屋で何時も時間を調整します。当時私は時計など持たされていなかった筈、でもバスの時刻どおり動くことはできていましたね。
本屋で買うのは、江戸川乱歩の小説、それから捕り物帳などです。もうその時間は街も薄暗くバス停の車庫の周りだけ明るい電光に照らされている時間です。乗車する人も少なく、お互い見知らぬ人達。多分終点迄乗っているのは私だけ。時間は四、五十分位掛かる筈。多分一人だけで降りて帰る筈。桑畑の中を突き抜ければ
早いのですが、夜はそんなまねができませんよね。農道を大きくりながら少し坂の小道を一目散に家にとびこむのです。
こんな話は閑話休題です。空になった教室の続きを今度書きます。
つづく
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