2010年6月10日木曜日

転校生 第8回

 教室での喧騒は相変わらず、窓際の男子生徒です。
先生が入ってきて、授業が始まり、先生が黒板に向かい、チョークで何か書き始めると、もう勝手なふざけ合い、物を投げる、椅子をガタつかせる、隣の女生徒をからかい始める、女生徒の甲高い笑い声。そろそろ先生の忍耐が切れるころですね。
 先生が教壇の端に立ち、怒鳴ります。
「おい、お前達、そんなにふざけたいなら、教室を出て行きなさい。」
 一瞬彼らも静まりますが、それこそ、待ってましたとばかりゾロゾロ出て行きます。外は初夏の明るい空。女生徒も何となくついでに出て行くと、反対側の生徒も二人、三人と続きます。 
 そして、残るのは級長、女子副級長それに私。
 先生も、何時ものことで驚きもしません。
「お前達も、この時間、外で遊んで来い。」

 もうすぐ夏休みがやってきます。東京に帰れる。うれしい!でも、この頃、私は土曜日の午後は家へ帰ることにしていました。映画を見に行くんだ。デパートのお子様ランチ。母親と一緒に街を歩く楽しみ。
 そして、日曜日の夕方、新宿から八王寺まで中央線に乗るのですが、電車が街の中を走っているところからだんだん何もない夕焼け空を眺めてぽつんと窓の外以外は見回すこの出来ない淋しさ、唯、情けないおもいでしたよ。

 そんな時に、何処で読んだ一茶の言葉か、今でも呟くことが有りますが、こんな言葉です。
「唯 嘆け、汝が 性の拙さを」
こんな言葉を理解してた自分が居た不思議をおまじないみたいに大事にしています。

 八王子から柚木村行きの最終便がでます。それに乗る時間待ちを街の古本屋で何時も時間を調整します。当時私は時計など持たされていなかった筈、でもバスの時刻どおり動くことはできていましたね。
 本屋で買うのは、江戸川乱歩の小説、それから捕り物帳などです。もうその時間は街も薄暗くバス停の車庫の周りだけ明るい電光に照らされている時間です。乗車する人も少なく、お互い見知らぬ人達。多分終点迄乗っているのは私だけ。時間は四、五十分位掛かる筈。多分一人だけで降りて帰る筈。桑畑の中を突き抜ければ
早いのですが、夜はそんなまねができませんよね。農道を大きくりながら少し坂の小道を一目散に家にとびこむのです。

 こんな話は閑話休題です。空になった教室の続きを今度書きます。

つづく

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