船が沖に出始めると、ここが横浜港なのだと良くわかります。右の方角に、ビルとビルに挟まって高くそびえる尖塔。
「ほあら、あれ、四月に行きましたよね。」
そうだ。エレベターの料金を取られました展望台です。「みなとみらい」ドガ展の帰りでしたっけ。そのあとまたプーシキン展に行く約束もしましたよ。もう八月です。すっかり忘却していました。
何故って、五月の大地震、東北地方の大津波。それに娘に呼ばれ、ひとまずアメリカ カリフォルニアに身体一つで一時避難。大自然の事件、人間関係の事件。忘れたいこと、心の痛みも回復したいと願った。そんな事があった時期でしたね。いろんな事を忘れるというのは、わたしが老人ボケだというだけではありませんよ。そんな想いは八十五才のボケも与えられた恵みともいえるかも。
ぼんやり水平線の房総半島を視界から外すと、船はもう船着き場です。
ビルのテラスから曲線に階段を降した水際に、船客をもう長い列を作って乗船を待ていますよ。降りる人は乗船券は降りる時に、お渡しください。と声を枯らしているのですが、イメルダさん、券が見つからずなかなか出口迄やってきません。
「そんなの、失くしたと言えば、大丈夫!」
もう乗船を待ち構えてるところの終わりの一人の船客です。
船を下りて、地下のビルの階段を上がり、一階の広いロビーは「そごうデパート」の入り口。そこの空間を利用して、出店が出ています。半袖シャツ、四種類だけ。それも五百円。東北津波難民の募金になるそうです。なかなかの私好みのがあったのですが、品切れ。買うのを諦めていたら、Kさんが、
「これ、マスターに買いましたよ。」
と一枚手に入れることができました。胸に大きく
B E L E I V E
J A P A N E S E
P O W E R
と書きこまれていました。今もこのブログを書き込みながら、愛着。Kさん有難うございます。
そんなところに、イメルダさんが、急ぎでやってきました。
イメルダさん「マスター、有りました、有りましたよ!マーロウはこのそごうの中の何処かですよ!」
私「え?店があった!」
イメルダさん「そうよ。私、其の紙袋を下げている人を見たの。」
「マーロウ」は、葉山御用邸の山裾にある 宮廷御用達の洋菓子店。そこのプリンがお目当てなのです。私はそのお店にIさんTさんと行った時、横浜にも出店があると聞き覚えが有りました。それで四人は大騒ぎ。
マーロウは レイモンド チャンドラーの推理小説に出てくる私立探偵です。若い頃からのフアン。此の言葉が耳に残ります。
『男は 強くな、ければ 生きていけない。 男は 優しくなければ 生きる意味がない』
先ずはこのデパ地下から四人分かれて捜すこと。これもここに来た遊び心。誰かの声
「ここ!ここよ!」
そこはショウ ケースが並べられてるだけの店でした。でも並ばなければ買えません。高級感に納められたグラスのプリンです。それぞれ何を 何個お買いになったかは 知らぬ顔の半兵衛。紙袋を下げ、地下鉄「みなとみらい」に乗るだけです。
横浜にお住まいのKさんは地下迄お見送り下さいました。階段の上から、私達が見えなくなるまで手を振り別れを惜しんでくれました。K女史、お騒がせ!勝手に呼び出し申し訳有りません。
無事に家に着き今日の報告がてら、家内に聞きました。そう、「SEE BASS」のことです。彼女は植物、魚類については 博識が深いのです。直ぐに解答が出ました。そ=SEE BASSは セイゴ フッコ の事をいいます。Black Bassと云う淡水魚がいますよね。
はい、分かりましたとマーロウのプリンを渡して退散しました。
みなさん、一日どうもありがとう。またどこかに連れ出してください。