2010年5月26日水曜日

転校生 第7回

 峠のソマ道(杣道)に入ると、日差しが木漏れ日となって、道を長く照らしてくれています。
 はじめのうちは、もの珍しく眺めながら歩くことが出来たのですが、でも何故か背後が怖いのです。鳥も鳴いてはくれません。 先え 先えと足早に歩きます。怖いのです。木の葉のざわめき、あの音。ザワ、ザワと私を追いかける音。私はもうつま先立ちで、逃げ腰に急ぎました。 こんな姿勢でと思うでしょうが、本能的にこの構えが、何時でも身体をよけることが出来るのです。
 
 風がゆするあの音、ザワ、ザワ。木々の悲鳴のように背中に張りついてきます。
 この道には私が悲鳴をあげます。どこかに、崖の斜面を降りられるならと、見回しますが、崖はもう飛び降りるほかは無理。 ザワ、ザワという音はもう背中ではなく頭にかぶさるように追いかけてきます。
 
 私は何処か道が切れるような場所を一心にさがしましたよ。有りましたね、獣道と云ううのかこれが杣道なのか、斜に、ジグザグな斜面、これを降りて柚木村に唯り付くかは、もうどうでもいいのです。 
 中腹までおりると、もう視界が見渡すことができました。 切り開いた斜面に何と畑があるではありませんか。それも桑畑ではなく、野菜畑。男の人が仕事をしています。
 心境としては話が通じるのか、なにか私が異邦人になったみたい、東京から一人で来て、戻る先もわからず、他所の人を窺っている情けない自分。 たかが小一時間の散歩道です。でも子供心に感じた次元の違う場所では時間は関係ありませんでした。
 降りてきた場所は他所の村です。 柚木村は東の方角へ、太陽が昇るほうに歩こう。

つづく

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