2010年9月21日火曜日

ウィーン旅行より 第6回 映画 未完成交響楽

若干、 21才のシューベルトの初の社交界デビュー。演奏会は勿論弾きこなすことになにも恐れは無い筈。でも 貧困の質屋通いの不規則な生活。身の回りには、礼装を整えるものなどなにもありません。どうすればいいのでしょう。

 頼みの綱は、あの質屋の店の娘、エミリーだけです。 その話を聞かされた彼女は飛び上がって喜びました。 そして シューベルトの手を取り、お店の倉庫、蔵の中に連れていきました。
  
 そこには、 ありましたよね。質草とは云え、新品同然の燕尾服。 ただ、サイズがピッタリとはいきません。帽子、靴もそうです。
「でも、ピアノの前に座ってしまえば、誰もわからないわよ!」
 エミリーの言葉は、 若き日のシューベルトの心に火を付けてくれました。 そして、肩に掛けるコートさえ用意出来たではありませんか。

 そして、その夕べがやってきました。 ウイーン恒例の、キンスキー侯爵夫人の音楽界。侯爵邸の車寄せに集まって来る、黒塗りの馬車。高貴、華麗な衣装に包まれた麗人達。
宮廷に仕える高官、制服の徽章をちりばめたナイト達。クローク係は出番を惜しむこともなく鮮やかな対応です。 フロアーを仕切る厚いドア、 時折漏れる密やかなさざめき、グラスの触れる音、若い女性の嬌声。 仕切られたフロアーは見下ろす外の闇が屋敷を包みこんできています。 

 そこへ、夕闇を押しのけ黒のコートにハットを被り何か場違いを思わせる人物がやってきます。ドアーマンと喋っています。車寄せから、小走りで階段を上がり、フロントのクロークに招待状を見せていますね。やはり彼です。シューベルトが来たのです。 係がコートとハットを預かります。 

 其の時の係の顔、二人で唖然と顔を見合わせます。 衣装掛けに掛けたコートの背中にぶら下がっている質草の札ハットの中からも吊り下がる同じ札。 でも、シューベルトは平然と今夜の世話役に導びかれ、会場に入るのです。 人の背中には目がありません。 ほら、このコートの背中にも 垂れ下がっている 質札の紐。ああ、何か悪い予感がしますよ。カメラが、その 背中を執拗におい かけていきます。後ろの方からはもう指差す囁き、笑いを堪えた声が。。。。

 つづく

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