2011年1月19日水曜日

シャンソン 『ナント』


 バルバラの歌うシャンソン『ナント』を私なりに訳しました。

 ナントは、大西洋側のフランス北の町です。父親が勝手に家を開け放し、何年も戻らず、友達も居なくなり 失意のどん底から、何もかも捨て、この昔からのナントの町を捨てて、結婚を決意。
 暗鬱な雨の降る町から訣別を 手を差し延べるひともなく告げる雨のナント。そんな時に父の友人の一人から手紙を届けられるのです。マダム、どうかもう一度ナント迄お戻り下さい。彼は死ぬ前に一目とマダムと御会いしたいと願っています。

 バルバラの暗い歌唱力が、雨のナント町を一層、暗くするのです。このシャンソンは一寸歌えない難しいシャンソンです。

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 ナント
 
 ナントに雨が降る
 手を貸して
 ナントの空は
 心を憂鬱にする

 一年も こんな朝を迎えてしまった 
 街並みも青く塗り替えられ
 停車場の外は もう見知らぬ街
 もう戻る気もなく
 私は旅に出る筈だった
 一通の手紙が 私の足をそこへ向けさせたのだ

 「マダム どうかグランジュウル オー ルー街
 二十五番街にお越しになって下さいませんか
 彼はもう短い命
 貴女に一目とそれが希みなのです」

 何年か共に過ごしたわ 最後の時
 心が締め付けられ
 彼の声が沈黙を引き裂く
 だって 彼はもう私を捨てて出て行ったの
 長い月日何時戻るかと わたし
 仲間達もいなくなり
 そこに取り戻した自分だけがいたわ

 グランジュウル オー ルー街 二十五番街
 ここで過ごした日々
 忘れることは無い
 この廊下の一番奥 あの部屋

 暖炉の傍に座り
 四人の男が立ち上がるのが見えた
 灯りが白く寒々と点り
 礼装をした彼らとは
 言葉を交わすこともなく
 ただの見知らぬ世話人たち
 逢ったことも話したことも無いわ
 でも すごく疲れているんだわ

 共に過ごした日々 
 グランジュウル オー ルー街 二十五番街
 もう決して忘れることは無いし
 もう居ないのだわ あの人

 ほら でもあなたのご存知の物語は残ったわ
 夕べがやって来て最後のお別れ
 浜辺での葬列
 彼は死を望んでいたのかも
 私の微笑を取り戻すこともなく
 闇の世界へ
 さようならも言えず 愛の言葉もなく

 海辺の墓地
 石畳の園に横たわり バラの花に飾られ
 安らかに眠るといいわ 「主よ、主よ」

 ナントに雨が降る
 忘れはしない
 ナントの空は
 心を滅入らせる

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