2011年1月24日月曜日

ジャズクラブ J 第1回 私のお出かけ付き添い人Iさん

八丁堀から日比谷線、丸の内線で乗り継ぎ、新宿御苑前までと夜の新宿の街へ。何時も何処を歩いているのか無頓着な85才の私と何時も一人で海外に出かけるマダム イメルダと呼びたくなる彼女との珍妙なカップルです。

 平日金曜日の夕方6時。帰宅を急ぐサラリーマンで混む時間帯。イメルダに云われます。「離れないで!」私ば、地下鉄くらい、一人でも乗れるよ、とばかり入口の脇にへばりつきます。

 降りる人と、乗り込もうと待ち構える人の異様な殺気がありますね。私は急ぐわけでもないのですが、自分の小柄な身のこなしで隙間になんなく入り、角の空席に回り込もうとした時、反対側から男性が背中を盾にして、座りこもうとしましたが、私が年寄りと気がついたのか、踵を返してしまいましたので、私も、軽く頭を下げ「どうも。」と云いましたよ。

 イメルダはこっちに目を光らせて監視しています。銀座駅迄は3つ目ですからすぐですよね。でも、人の身体で何処の駅で停まったのか見当がつきません。 東銀座なのか築地なのか見当がつきませんよ。空いてる電車なら慌てることは無いのですがね。イメルダがすかさず云いました。

「次が東銀座、その次ですからね。」

 次の停まった駅の乗客の混雑していること!ここが東銀座。矢張りこの辺も商社街のビルばかりになってるんだなと昔の八丁堀のサリン事件以前のどぶ川の頃を感慨に耽り、席を立ちあがりイメルダの傍にくっつきました。
さあ、この銀座駅で、乗り継ぐ地下鉄線が、銀座線、丸の内線と日比谷線。各種に人々は向うのです。車内から降りる人は、半分はここで降りるのですから、其の人波に巻かれられないわけはありません。

 シヤンソンの歌ではないけど、

「サンジャンの人波に 私は巻かれていた」

 でも、アコーディオンの響きではなく駅構内の案内の甲高い声。英語、中国語、日本語と長々と説明を理解しおうとしても、殆どの人は聞きはしないのでは?

 エスカレーターに向えば、人波に、否応なく乗らなくては、中ほどまで上る中に人も、整然と姿勢を正すことができました。

 そのとき、前で立っていた若い女性がよろめいたたのです。後ろを振り返り、下を向いて何か探してる様子。私もすかさず視線を下に向け、何か固形物があるのに、目を止め、拾い上げました。これ!ヒールの足のカカト。

「あっ、有難う御座います。」

 カカトを手に取り彼女は茫然と、うろたえています。エスカレートを降りても、立ちすくんだまま半ベソをかき、手のひらのカカトを見つめ、泣いてしまうかな、と思わせる若い女の子。その娘が都会子ではなく、地方から来た娘なのは直ぐ分かります。拾い上げた関わりが有るので、私としてはあまり深入りしなように、

「あそこの駅員さんに行ってヒールが折れてしまったのと相談するといいよ。」

と声をかけました。私の後ろにイメルダがいて、すかさず彼女はいいました。 

「そんなの心配することないわよ。一緒に行ってあげるから。いらいしゃい。」

 そして、そのとき、その娘が云う言葉に私はびっくり。

「私、現金がないんです。」

 でも、イメルダは平然としています。

「大丈夫、カードがあれば、其のへんでおろせるから。」

 駅員のところに、その娘を連れて行き、カカトの折れた靴を見せ、この辺のヒールのカカトを直してくれる所を聞き出しています。 駅員が指で改札の外を差し、カードでお金をおろすならこの自販機の横にあります。そんな事云ってるみたい。二人はそこまで行き、何とかお金を下ろしたみたい。
 私、「そうか、そうか、現金がないということは、お金がないんじゃなくて、唯、現金がないと云うことなんだ。」イメルダは娘にあそこだよ、改札でて、すぐそこよ。

 流石、マダム イメルダ。拍手!私が一人でいたら、改札を出て、一緒に靴屋まで行って、多分修理代も払いかねません。

 この事を、2日後の夕方息子が来たので話しました。彼は人の顔をニヤニヤ笑いながら、なにを馬鹿なことを考えてるのと彼の回答は、数学の答えみたいに割り切れていましたね。

 「俺なら、もう片方のヒールのカカトを折ってそのままで歩いて、靴修理に持ていかせますね。ローヒールのつもりなら、いいんじゃない。 修理代は一つも、二つも 値段的に変わらない筈。」
 と、冗談ぽっく言っていました。

 私は、そんな発想が瞬時に出てくる彼の反射神経の答えに、軽く面を取られた気持ちでした。そして、その話をまた後になって、我が家の奥さんに話したところ、彼女の解釈はまた、違いましたね。
    
 「なにを、馬鹿なことを云ってるの。 靴はローヒールでも、ハイヒールでも、カカトがなければ歩けません。スリッパで足を引きずるようなものですよ。」

 やはり、ママ、ごもっともです。

つづく

    

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