「横断歩道はここ!パパ、ちゃんと渡るわよ!」
車道を出て、右を遠く眺めると、懐かしいあの伊勢丹の字が見えるネオンの看板の灯り。そうか私は新宿駅は左の方向と思って歩いていたけれど、私達はだんだん四谷大木戸の方から入れる御苑裏口の近くに来ているのだ。
また、私は淀橋にいた頃を思い出します。もう八丁堀の豆まきは終わりましたが、淀橋の鬼王神社の豆まき、甘酒、テント小屋の地獄極楽めぐり。九段靖国神社のお祭り。ここのお祭りの出しものは、あの日の昭和を憧れる懐かしさがあります。
いくつもテント小屋。其の前の、呼び込みのあの声。あの口上を見上げながら見てるうちに、半日はアッという間に過ぎるのです。口上の合間に、後ろの幕を、チョット引き上げて中を覗かせてくれるのも、わくわくするのです。
ロクロックの首の女。そうかと思うと、
「サア、サアーこれは二度と見られない、世にも不思議な大イタチ。見なけりゃ損 ソン。驚かなければお代はいらない!」
つられて中に入ると小屋をグルリと回れるように、縄で柵が張られていて、真ん中に大きなドラム缶が置いてあり、その上にでっかいまな板が乗っけられてあります。板の上には血糊を思わせる色がベッタリ。
「サア サア、 これが世にも不思議な大板血だよ。」
フランス映画の天井桟敷、犯罪大通り、あの名女優 アル レッテイが見せ物小屋でドラム缶に身を沈めて
水の中に座りこむ姿はまだ絵になりますが、こちらの大イタチは、落語のオチにもなりませんね。
それでも入場料を払った人達は苦笑いするだけで裏口から、さも面白かったと、見物人の顔を見ながら出て行くのです。靖国神社だもの、だますのも、だまされるのも芸の中さ。
イメルダは反対側の歩道を歩きながら、ブツブツ云いながらJのクラブを「確かこの辺りに、昔、厚生年金ビルがあった筈・・・」そして一寸その辺で聞いてみます。でも近在の何処のビルも殆ど明かりが点いてはいません。彼女はビルの薄暗い通路から出てくる初老の紳士を目ざとくみつけました。彼女は直ぐ駆け寄っていきました。その人は昔の厚生年金ビルと云う言葉にすぐ反応を示してくれました。それは彼女が記憶してたとは反対の方向を指さしていました。
「反対側に渡り、あの紅い中華料理の看板の傍にあるはず。」
男の人の言葉は的確に教えましたよ、と迷いがありません。彼女は納得できず憮然としています。
「嘘よそんな筈絶対ない。あの人私達をからかったのよ。」
もう先の方に行った人の後を追いかけようとします。
私「まぁ、急ぐことでもなし、ほら、信号も青だし渡ろう。」
仕方なく彼女も私と渡ってくれました。女性は強い、いいや、美女は怖いというべきかな。
7時半開演迄、あと10分です。急がなければ。中華料理店はもう目の先。彼女が立ち止まりました。この地下に、それらしきクラブがあるわ。でもJでは有りません。
もうひとつ先に私の気になるシャンソン クラブ!気になる二人は下まで降りてしまいました。廊下の壁にはよく見知ったシャンソン歌手のポスターがいくつも貼られ、壁際に置かれたプログラムの案内が積み重ねられてあります。廊下の奥からロングドレスを着、付け髪を垂らした女性、多分ここのシンガーなのでしょう。ドアーの中に消えました。入れ替わりに、ギャルソンが現れ、店の説明、歌手などを説明してくれましたが、時間帯を2時間置きに会費、入場料も違うみたい。とりあえず パンフレトを貰って逃げ出しました。横断歩道を渡りワンブロク捜しましたがJは見つかりません。
「矢張り、絶対最初捜したところよ。」とイメルダ。又、横断歩道を急ぎ渡りましたね。そしてここはあの初老の紳士に彼女がJの店を聞いたところ。もうここのビルの一画は真っ暗。流石に彼女も
「この表通りは諦め、この先のビルの横町を探しましょう。」と歩きかけた時、ビルの前の駐車場を眺めたら、低い立て札に『Jジャズクラブ』と矢印 が書かれてあるではありませんか!
「パパ、パパ!あのビルの地下の入り口看板にJジャズクラブ!さっきの男の人の隣のビルよ!やっぱり、あいつ私達をからかったのだわ!」
また、彼女の怒りに火が付きました。 私は、でもこう云う街のビル街は、下町と違って隣同士の付き合いなどないよなと思いつつ、やっと目的のクラブの階段を降りることが出来ました。
この続きはサンフランシスコの娘のところで書きます!
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