私が喋り出そうとすると・・・窓際の背の高い子が立ち上がります。
「先生、その生徒は、東京から通うのですか?」
先生「いいや、皆と同じこの南多摩郡の土地で、生活し、同じ空気を吸うんだよ。皆、よろしく頼むよ。」
私は、すばやく彼らに頭を下げ「よろしくお願いします。」とだけ言い、自分の席と教えられた最後列の机につきました。その日はなんとなくぽつんと、過ごすだけで終わったのでした。
数日が過ぎ、私はいつものようにバス停で峠を越えるバスの時間を踏み切り番のおじさんと言葉交わしながらあと一時間をどう過ごそうかぼんやりしていました。
そこへ私たちの組のあまり目立たない男の子、名前は分かりません、彼が云うのです。
「俺、峠に家があるんだ、峠まで歩こうよ。」誘ってくれたのです。お互い、名前など呼ぶほどの仲ではありません。お前、俺の世界です。でもK君と呼ばれていたようにも思いましたね。
私は彼に聞きました。
「何時もなにしているの?」
「野鳥を山に取りに行くんだ。今度の土曜日つれてくよ。」
峠の中腹まで来ましたがまだこの先が急坂できつい登り坂になります。二人で崖ぎわの道を避け反対側の道路に座り込みました。
彼が喋り出しました。
「この峠を俺たちは猿丸峠と云うんだ。この天辺には、色んな鳥が林の上を飛びぬける空の道があるんだぞ。そこを通り抜ける鳥は頭を突っ込んで逃げられなくなるんだ。でも許可を持たない人は、そんなことしたら罰せられるだ。カスミ網を使わなくても、笊と紐さえあれば、ウズラでも野鳥でも採れるんだ。」
そんな話で時間を潰してもバスは来ません。私は腕時計など持っていなかった筈。急坂を一気にのぼれば峠です。
彼は峠の水が誰でも飲める所に連れてきて
「ここで水を飲み、前方の山の尾根つたいに降りて行けば、柚木村だよ。」と行ってしまいました。
峠の道を降りるより近いのは分りますが、一人で飛び込んで行くのには勇気が入ります。でも、もう段取りはできてしまったのです。
つづく
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