
その頃、女主人は肩と首を痛めて、毎週マッサージ師に来てもらっている状態でした。その青年は彼女の部屋の調度品、ピアノや譜面台、ヴァイオリンがいやでも目につきます。
そんなある日、彼は女主人に何かを持ち込みました。
青年 「これ、見てもらえませんか?」
見れば、ヴァイオリンケースです。
彼女 「どうしたの?」
青年 「今は楽器は弾いておりません。楽器は毎日弾いて音を出していないと駄目になるそうです。この楽器を宜しかったら使ってもらえませんか?」
女主人はアマチュアオーケストラのメンバーですが、まだ十年ちょっと。困惑と自分のヴァイオリンにやっと馴染んだところです。でも、その楽器への興味は隠せません。
やっと、口をひらきます。
彼女 「どんな楽器ですか?」
青年はケースを引き寄せ、お互い不安げに中を覗き、取り出しました。
彼女 「随分古いものね。」
青年 「これ、クレモナです。裏にサインもあります。宜しかったら、当分使ってもらえませんか?」
彼女 「遣わして戴けるのはうれしいけれど、この駒の高さを調節しなければ、私には無理よ。それでもよければ。」
話はなんとなくまとまってしまいました。
その日、土曜日のオケの練習に女主人は二つ楽器を提げ、颯爽とお出かけ。
オケのプロの話では、ものは、サインも本物、値段は二千万円位、あとは持つ人の気持ち次第、と云うことになりましたが・・・
この楽器、一年位使いましたね。その後は・・・・?
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