2010年3月29日月曜日

転校生 第2回

 この村には水道の設備が有りません。野猿峠の山裾に寄った林を見上げる一画にある農家です。裏に回ると、岩肌から流れ落ちる水をためるように岩を彫り込んだ小さな洞窟が唯一の水源地なのですね。
 周りをセメントで固め、甕を据え柄杓が差しこまれていて、炊事、洗濯もそこで出来るのです。

 家は、山裾ですが幾分高台になっていて、南口正面の門構えに寄りかかって下を見渡せます。桑畑の中央を農道がバス通まで幾分広く伸びていて、後は多摩丘陵にかこまれた寒村。一時期、新聞などで、無医村と取り上げられたことなどがありましたよ。 
 
 この環境に慣れるまで私はまだ今度の学校に登校してはいませんでした。先ず興味を持ったのは、水車小屋です。幅50、60センチ程の小さな小川に掛けられた水車。小屋の中は、臼が四つ据えてあり、臼の上に杵が横棒に垂直に吊るされてあるだけ。人がいるのを見たことがありません。でも、せき止めてある水路の水が流れだすと、小屋の中が、あの杵がガッタン、ガツタンと働きはじめるのです。 

つづく    

0 件のコメント:

コメントを投稿