
「BARBARA」(バルバラ)はフランスのジャック プレヴェールの「パロール」という詩集に収録された詩のシャンソンです。(「バルバラ」とは女性の名前です。)音楽はジョジェフ コスマで、プレヴェールとは名コンビですので、シャンソン好きの方なら良く知っているはずです。
ただ、このシャンソンをフランス語で聴いても日本語訳を読んでも、とても心に染み入って聞き入ることはできない失敗作だと私は思います。プレヴェールとコスマのコンビは映画「天井桟敷の人々」で輝くばかりでしたのにとがっかりしています。でも、私はこの詩を読むと感動するのです。これはシャンソンより朗読されることのほうが素敵なのですね。ちなみに、イブ モンタンの朗誦を聞いてそう感じましたね。
このバルバラの詩のストーリーは「天井桟敷の人々」のシーン「犯罪大通り」に酷似しています。天井桟敷の監督がマルセル カルネで反戦運動を支持していたからでしょうか。
天井桟敷の男が女にすれ違うシーン、いかにもプレヴェールらしいストーリーと台詞がありますね。一方バルバラは、フランス軍港の街、雨のブレストで一人の退役軍人らしき人物がバルバラとすれ違うところから始まるのです。
「あの日ブレストは雨だった。
そう、僕はきっと、シャム通りですれ違った。
君が微笑んで、僕も微笑んだ。
覚えているかい、バルバラ
あの日すれ違った君は微笑んで
僕は君を知らない
君は僕を知らない
あの日のように忘れないで
雨宿りしていた男が君の名を呼んだ
バルバラ!
そう、君は雨の中を走って
濡れながら、嬉しそうに、華やかに彼の腕の中へ
覚えているかいバルバラ、あのことを
バルバラ!
“君”って呼んでもいいよね
たとえ一度しか会っていなくても
覚えているかい、バルバラ」
天井桟敷では、犯罪大通りの人ごみの中、アルレッティーふんする見世物小屋の女、ギャランスと名優フレデリックがすれ違うシーン、いかにも軟派する男が言う台詞で接近してくる素晴らしい演技の見せどころです。二人が別れるときにギャランスの言う台詞
「愛する者同士には世界は狭いものよ」
彼女はさり気なく去っていく。
バルバラでは、バルバラの恋人と退役軍人を重ねる。退役軍人はバルバラの恋人を見て、昔の自分を回想していた。場面が展開して、バルバラの恋人は戦場の雨の中で這いずり回り、野良犬のように死に行く中、バルバラのことを思い出している。そしてつぶやく
「おお、バルバラ、なんて戦争なんて馬鹿げているんだ!」
バルバラは英語ではバーバラですね。でも、この「バルバラ」という言葉、この叫びの中に反戦歌のような響きがあります。
あのマレーネディートリヒが歌った「リリー マルレーン」(こちらも女性の名前ですね)。いつしかヨーロッパ戦争中、敵味方なく歌われていたというこの歌も、恋人の名、見知らぬ町ですれ違った女の名前であったのに違いありません。その名を呼ぶことによって、ひそかな愛の灯火が灯るのは、この名前の響きによるものだと私は思います。
0 件のコメント:
コメントを投稿