2010年1月13日水曜日

鴨川


 鴨川駅、バスを降りてから、誰かに付けられていると思った。振り返ることが出来ず、通りを横町に曲がり、浜の方へ行った。やはり付いて来る。浜へ出るのは危険だが、もう人気のない漁師の空き地を滑り下りていた。男は声をかけて来るに違いがない。私はとっさに、浜の傾斜を逆に駆けあがり、石垣を積んだ旅館の庭先に進もうとした。男が石垣を見上げ、「一寸待ちなよ」と凄んで見せた。
 石垣に紅い花が咲いていて急に浪の音を聞いた。バスの中で、私が会って話していた着物姿の意気な女を男は「あねさん」という云い方で、何故か執拗に、根ほりと問いただすのだった。地方では、まだ着物姿が珍しくもない頃の話。

     はまなすや 呼び止められる 恋もせず 
                             ノブ 

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