夏の日の 西日に透けて 帰る女の淋しき
秋の日の 釣瓶落としの坂を背負い込んで 帰る男の淋しき
女は云った。
「私は病気だわ。葡萄酒と、音楽が必要よ。」
男はベットに腰掛けたままタバコをくゆらす。
朝のテーブルに、二人は思いだすこともなく、ナイフでパンを切る動作を、
サルトルが珍しくも表現した愛の、夜の仕草で演じるのだ。
生命の文明は暗い
有翼花冠の堕天使
デューラのメランコリアの女は
部屋に座り込んだまま、海を眺めている。
誰も入る余地のない傷口のように突き抜けて、出て行った、部屋の、窓の、経験の死んだ雨
ベル ファム、ベラ ドンナ
ファム ファタールと世界が名指しても
如何なる国 何処の 人の心をも刺激するなら
「私は病気だわ。葡萄酒と、音楽が必要よ。」
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